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進化し続けるバークシャーの投資ポートフォリオ、ウォーレン・バフェット成功の秘訣を探る

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弱気相場の活用と投資戦略の転換点

「本質的価値よりも低い価格で取引されている企業の株を買う」。これは伝説的投資家ウォーレン・バフェットの投資哲学の核心です。ここでキーとなるのは「本源的価値」であり、これは企業が将来生み出すであろうキャッシュフローの現在価値を指す概念です。

バフェットのバリュー投資は、現在の市場価格ではなく、企業の本源的価値に注目するという原則に基づいています。

バフェット氏は2023年春、以前(2020年)に購入した日本の大手商社株の追加購入(買い増し)を公表しました。同氏の見解は海外投資家の関心を惹きつけ、指名された各社の株価は歴史的な高値を更新しました。

円安・ドル高や日銀の金融緩和姿勢などを背景に、日経平均株価も好調に推移しており、1990年7月のバブル期以来初めて3万3,000円台を回復しています。

バフェット氏の成功の秘訣はそのシンプルさと一貫性にあります。消費者が信頼するブランド、収益性の高い企業を選び、それらへの投資は長期的な視点から行います。これらの原則をもとにバークシャー・ハサウェイは市場を超えるパフォーマンスを持続的に上げ続けています。

しかし、バフェット氏の投資哲学には投資を見送る判断も含まれています。仮想通貨に対する彼の懐疑的な立場はその一例で、自身が理解できない領域は「リスク」と定義し、そういった分野への投資は控えるというのが同氏の特徴です。

この慎重な投資スタイルと哲学は、グーグルやアマゾンのような新興株への初期段階での投資機会を見送る場合もありますが、それは資産保全を最優先する哲学から来ています。

ただし、バフェット氏が伝統的なビジネスに固執し、新興技術への投資を避けているわけではありません。特にIT分野への投資は積極的です。今回のコラムでは、バークシャーのポートフォリオがどのように進化し、新しい分野をどのように組み込んできたのかを探りながら、バフェット氏がその卓越した成績を維持したのかを見ていきましょう。

三大投資家の一人

ウォーレン・エドワード・バフェット氏は、1930年に米国中西部のネブラスカ州オマハで生まれ、世界的な投資家となった現在もその地で暮らしています。バークシャー・ハサウェイの年次株主総会もこの地で開かれ、その洞察力と影響力の高さから「オマハの賢人(オラクル)」と称されています。

ウォーレン・バフェット、ジョージ・ソロス、ジム・ロジャーズ。これらの名前は、三大投資家の一人として世界中で広く認知されています。ソロスとロジャーズは、「グローバル・マクロ」戦略に基づいて、空売りや逆張りを駆使して並外れた成功を築き上げてきました。

一方のバフェット氏は、本質的価値よりも低い価格で取引されている銘柄を探すバリュー投資家です。彼の哲学の基盤は、経済学者ベンジャミン・グラハムから直接学んだ「バリュー投資」に基づいています。

バフェット氏は短期的な市場動向に惑わされず、企業の本質的な価値と長期的な可能性に焦点を当てます。バフェット氏の名言、「他人が貪欲なときは恐れ、他人が恐れているときは貪欲になれ」は、その投資哲学を象徴しています。

バフェット氏の投資の選択基準は明確であり、「自身が理解し、持続的な競争優位性があり、信頼できる経営陣がいる企業」を選びます。これらの基準により、彼の投資は強固なビジネスモデルと一貫した収益源を持つ企業に集中されます。

バフェットの投資哲学

ウォーレン・バフェットの投資哲学は、数十年にわたり継続され、市場の厳しい試練を乗り越えてきた普遍的な教訓と言えるでしょう。誰もが学び、自分のものにする価値があります。本章では、その哲学の基本的な要点を幾つか取り上げてみましょう。

1. 本質的価値の見極め:バフェットの投資法は株価だけに注目するのではなく、企業の本質的価値を評価することに主眼を置いています。本質的価値とは、企業の収益力、資産、負債などのファンダメンタルズを基に判断される、企業の真の価値を指します。バフェット氏は、少なくとも5年先の推定収益に対して「妥当な価格」で売られている銘柄しか購入しないと述べています。

2. 「堀」を持つ企業の発見:バフェット氏は競争優位性、すなわち「堀」を持つ企業を好みます。これは、強力なブランド認知度、独自の技術、コスト優位性などを指します。この「堀」は企業を競争から守り、収益性を保持するための要素となります。

3. 負債の最小化:バフェット氏は負債が少ない企業を好む傾向があります。なぜなら、負債の多い企業は景気後退時に脆弱となり、利益を圧迫するリスクが高まるからです。

4. 短期的な市場の変動を無視し、優良企業を長期保有する:バフェット氏は「バイ・アンド・ホールド」戦略の熱心な支持者です。「我々が最も好む保有期間は永遠だ」と彼がしばしば口にする言葉は、その哲学が反映されています。

本質的価値の算出方法については、多くの投資家やアナリストが「インカム・アプローチ」や「オーナーズ利益」を使用しています。前者は企業の将来の利益やキャッシュフローを生み出す能力を現在価値に換算する方法で、後者は利益、減価償却費、資本支出を加味した算出方法です。

しかし、バフェット氏の投資哲学はこれらの方法を単純に使うだけに留まりません。バフェットは、投資対象の事業構造、競争上の優位性、そして経営陣の能力と理念についての深い理解を投資判断の一部としています。これは企業の根底にある価値を見抜くバフェット独自のアプローチです。

バークシャー・ハサウェイとは

ウォーレン・バフェットがトップを務める投資会社バークシャー・ハサウェイについて、詳しく見ていきましょう。2023年3月時点での米SEC(証券取引委員会)の提出書類によれば、バークシャー・ハサウェイの保有銘柄は48にのぼり、その総資産価値は約3,000億ドル(41兆円)。また、現金及び現金同等物の保有額は1270億ドル以上に上ります。

バークシャー・ハサウェイは、保有企業からの利益だけでなく、自社のキャッシュフローを有効に再投資することで成長を遂げています。

バークシャー・ハサウェイの保有銘柄の中でも、最大の持ち株はアップル社で、約9.16億株を所有しています。これは同社の投資ポートフォリオ中で約46%の割合を占め、その評価額は約1500億ドル(21.59兆円)に達しています。その他、バークシャー・ハサウェイが多額に投資している銘柄には、各業界のリーディングカンパニーが揃っています。以下にその一部を紹介します。

1. アップル(ポートフォリオ全体の46.44)
2. バンク・オブ・アメリカ・コーポレーション(9.09)
3. アメリカン・エキスプレス (7.69%)
4. コカ・コーラ (7.63%)
5. シェブロン (6.65%)
6. オクシデンタル・ペトロリアム (4.07%)
7. クラフト・ハインツ (3.87%)
8. ムーディーズ・コーポレーション (2.32%)
9. アクティビジョン・ブリザード (1.30%)
10. ヒューレットパッカード (1.09%)

バークシャー・ハサウェイの投資ポートフォリオは、上位10銘柄に大きく依存しており、その保有比率は全体の90.15%に達しています。セクター別にみると、情報技術が最も大きな割合を占め、全体の約49%を担っています。

それに続くのが金融セクターで、全体の約22%を占めています。消費財セクターは全体の約12%、エネルギーセクターは10%強の割合となっています。これらの数値からは、バークシャー・ハサウェイが投資における多様化を意識しつつも、特定のセクターや銘柄への強い信頼を示す姿勢が見て取れます。

バークシャー・ハサウェイのセクター別比重の推移 出典:whalewisdom

コカ・コーラへの当時事例

ウォーレン・バフェット氏の投資手法を理解するために、1988年の彼のコカ・コーラへの投資が参考になります。大暴落後の株式市場が萎縮する中、バフェット氏はコカ・コーラの強固なブランドと安定したビジネスモデルを見て、約10億ドルを投じ、同社の株の6.2%を取得しました。この投資は現在220億ドル以上に増え、同社株の9.2%を保有しています。

金融セクターについては、バフェット氏は2023年1〜3月期にUS BancorpとBNY Mellonの株式を売却しました。一部企業が利益追求のために基本原則を無視していると感じ、このセクターへの露出を調整することを決めました。この決定は、シリコンバレー銀行の破綻が業界の不安を高め、株価を下落させた時期と一致しています。

バフェット氏の投資戦略はバークシャー・ハサウェイの業績にも表れており、同社の株価は1965年から2022年まで年間複利成長率19.8%を記録し、S&P500の成長率9.9%を大きく上回りました。

バークシャー・ハサウェイの貸借対照表も同様の拡大を見せています。2009年の総資産が2,971億1,900万ドルだったのに対し、2023年1~3月期には約9970億7200万ドル(140兆円)に拡大しています。

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バークシャー・ハサウェイの総資産推移 出典:macrotrends

仮想通貨に対する否定的な姿勢

ウォーレン・バフェットの投資哲学は、あくまで自身が深く理解し、把握できる範囲のものにのみ投資する、という信念が核となっています。自身が「能力の輪(Circle of Competence)」と表現している様に、自分にとって知識と理解が深い分野だけに投資することで、リスクを最小限に抑えつつ、投資先企業の将来性を的確に評価することができます。

この観点からビットコインやその他の仮想通貨に対して、バフェットが懐疑的な立場を取っていることは理解できます。これらの資産は、彼の知識や理解、すなわち「能力の輪」の外側に位置するからでしょう。

関連:バフェット陣営が再度ビットコインを痛烈批判:「糞の取引」「殺鼠剤の二乗」

過去にバフェット氏はビットコインについて「本質的価値のない」ものであると評し、更には「ネズミ毒の二乗」と発言したことは広く知られています。これは、バフェットがビットコインの価格変動の激しさや、具体的な価値源泉が見えづらいという特性を、自分が理解しやすいビジネスモデルから大きく逸脱したものと見ているからだと考えられます。

2020年にCNBCとのインタビューで、「仮想通貨自体が何も生産せず、何も生み出さず、実質的に何もできない」と述べていたことも、バフェットの視点を裏付けています。

そして現在、2023年の時点でも、バフェットはビットコインなどの資産クラスに対するポジティブな見解を示していません。同氏は一貫して、自身が理解できない投資先や、本質的な価値が見当たらない投資先を避ける姿勢を貫いています。

しかし裏を返せば、理解することができればその見解を改める可能性も秘めています。その一例が、現在では大きな投資先となっているアップル株です。

IT投資に対する方針転換

ウォーレン・バフェット氏は、基本的な投資原則を曲げることなく、時代の変化とともに投資戦略を進化させ続けています。その象徴とも言える事例が、IT分野への投資です。

バフェット氏がIT分野に対する否定的な見方を示したのは、1998年の株主総会で「自分より有利な人がいるゲームには参加しない」と述べたことで知られています。しかし現在、バークシャー・ハサウェイの投資ポートフォリオは、情報技術分野の割合は全体の約49%を占めています。

転換点は、2016年1~3月期にバフェット氏が初めてアップル株を大量に取得した時とされます。バフェットはアップルを単なるテクノロジー企業とは見なさず、忠実な顧客基盤を有する消費者向け事業として評価したのです。

さらに、アップルの利益がキャッシュへと転換され、株主に還元されることから、アップル株を継続的に保有する利点があります。アップルは2012年から始めた配当の支払いと、翌年に開始した自社株の買い戻しにより、利益が株主に直接還元される形をとっています。

2023年6月現在、アップルの1株あたりの年間配当金は0.96ドル。バークシャー・ハサウェイが保有する約9億1600万株から計算すると、同社はアップルから年間約8.8億ドル(約1,270億円)の配当収入を得ています。これはバークシャーの重要な運用資金源となっています。

バフェット氏と彼のパートナーであるバークシャー・ハサウェイ副会長のチャーリー・マンガー氏は、それぞれ92歳と99歳という高齢でありながら、常に革新的な視点で投資対象を選んでいます。固定観念に囚われることなく、柔軟に投資対象を評価し、可能性を見出す彼らのアプローチは、長年にわたる成功の一因と言えるでしょう。

日本の商社への関心

ウォーレン・バフェットの投資焦点が現在、日本の5大商社株に向いていることは興味深い展開です。バークシャー・ハサウェイ子会社、保険会社ナショナル・インデムニティー・カンパニーを通じて、三菱商事、三井物産、住友商事、伊藤忠商事、丸紅の発行済み株式に対する出資比率は、4月時に報じられた平均持ち株比率7.4%から平均8.5%強に引き上げられました(2023年6月12日時点)。

5社の保有株式の総額は約2兆8,000億円に達しました。バフェットはこれら商社株を長期保有する意向で、さらに、これら5社の株式保有比率を最高9.9%まで増やす可能性を示唆しています。

日本の大手商社の多角的なビジネスモデルは、彼の率いるバークシャー・ハサウェイとの共通点を示しています。バークシャーは、保険(GEICO)、鉄道輸送(BNSF)、電力(BHE)、製造(工業、建築、消費者製品)、小売(McLane)など、様々な事業を展開する複合企業であり日本の大手商社と類似しています。

バフェットは、このような商社が彼が理解できる範囲でビジネスを行い、安定した利益を上げていることを高く評価しています。彼は2023年4月のCNBCインタビューで、「これらの商社は大企業だが、彼らのビジネスは理解可能で、そしてバークシャーと似た多角的な利益を有している。それに、彼らの株式は信じられないほどの価格で取引されていた」と述べています。

バフェットは23年4月、CNBCのインタビューで、商社が「理解可能な」事業であり、それによって安定した利益を上げる能力を高く評価している。

これらは大企業だとばかり思っていた。何をやっているのか大体理解できる企業だった。多くの異なる利益を所有しているという点で、バークシャーと似ているところがある。そして、彼らは私が信じられないほどの価格、特に当時の金利と比較した価格で取引されていた。

バフェットのこの戦略は、既に大きな成果を上げています。2020年8月のバークシャーの所有権公表以来、丸紅の株価は4倍に、他の4社も2倍以上に急騰しています。これはバフェットの独自の投資哲学が現在でも有効であり、その投資眼が確かであることを証明しています。

関連:バフェット氏率いるバークシャー 日本5大商社の株式保有比率を増やす

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