現実資産のトークン化とは
中央管理者が介在しなくても透明性の高い取引が実現できるブロックチェーン技術は、暗号資産(仮想通貨)以外にも実用化が進められています。その中の一つが、本記事で紹介するリアルワールドアセット(RWA:Real World Assets)のトークン化です。
リアルワールドアセット(RWA)自体は、株式や債券、不動産、美術品、貴金属、カーボンクレジットなど無形・有形の現実資産のこと。これらをトークン化することで、DeFi市場が拡大や、各資産の流動性向上や金融取引のコスト低下など、様々なメリットが期待できます。クリプトと既存金融をつなぐRWAのトークン化は、今後の資産運用の新たなトレンドになり得るでしょう。
本記事では、オフチェーン上にあるリアルワールドアセット(RWA)が、なぜクリプト業界やブロックチェーンと関連付けられて語られるかをベースに、概要や金融業界にもたらすメリットなどを解説します。加えて、セキュリティトークン(ST)との違いも見ていきましょう。
- 目次
1.リアルワールドアセット(RWA:Real World Asset)とは
リアルワールドアセット(RWA:Real World Asset)を直訳すると「現実世界の資産」であり、実際の世界で存在する資産や権利のことを指します。金(ゴールド)や不動産、株式、債権など伝統的な金融資産に加え、カーボンクレジットや著作権、企業ブランドなどの無形資産も含まれます。
RWAは、もともとは物理的な実体を持つ資産を指す用語でしたが、近年、デジタル資産や仮想通貨の急速な発展により、RWAとデジタル資産を区別する必要が高まり、RWAのトークン化という概念が生まれました。この発展に伴い、RWAの範囲は拡大し、物理的な実体を持つものからデジタル資産まで多岐にわたります。現在、様々な資産をブロックチェーン上でトークン化する動きが進行しています。
RWAのトークン化とは
RWAのトークン化は、Real World Assets(現実の資産)をブロックチェーン上でデジタルトークンとして表現するプロセスを指します。「トークン」とは、ブロックチェーン上で資産や権利を表すデジタルな情報のことです。このトークンは、例えば不動産、株式、債券などの実際の資産や権利をブロックチェーン上で表現したもので、ブロックチェーン技術を通じて取引可能です。
これらのRWAをトークン化するプロセスは、ブロックチェーンベースの基盤上で行われます。具体的には、RWAのオーナーシップ権や価値をブロックチェーン上のトークンに変換し、それを発行し、ブロックチェーンネットワークで管理します。また、トークン化されたRWAの取引履歴もブロックチェーン上に透明かつ永続的に記録されます。
RWAのトークン化は、金融業界に多くのメリットをもたらす可能性がありますが、規制や価格変動など、課題も存在します。次章では、RWAのトークン化が金融業界に与える影響とそのメリットについて詳しく探究していきます。
2.リアルワールドアセット(RWA)のトークン化が金融業界に与える影響
リアルワールドアセット(RWA)のトークン化に関心が集まる理由と、金融業界に対する影響は以下のようなものが考えられます。
- DeFi市場の拡大
- 資金調達のハードル低下
- 資産流動性の向上
- 取引コスト削減
それぞれの利点を把握し、RWAへの理解をさらに深めていきましょう。
2-1.DeFi市場の拡大
DeFi(分散型金融)とは、ブロックチェーン技術を活用することで、中央管理者を介在せず金融取引を成立させるサービスの総称です。近年、世界で注目を集めているDeFiのTVL(Total Value Locked:DeFiに預け入れられている資産の総額)は、 2023年中旬時点で約1180億ドル(約18兆円)。TVLが高いほど、その市場やプロジェクトへの関心度や、投資家や個人からの資金流入が多いことを表しています。
このように、すでに市場規模が急拡大しているDeFiの枠を、さらに拡大できる可能性を秘めているのが「RWAのトークン化」です。これまで物理的な取引が主流であった伝統金融とブロックチェーンを融合させることで、従来はオフチェーンでのみ取引されていた資産が、ブロックチェーン上で取引可能となります。
伝統的な市場で取引されている資産総額は800兆ドル以上ともされており、これらの一部がDeFiで取引されるようになれば、DeFiの市場規模はさらに大きく膨らむ余地があります。そして事象で解説するように、市場規模の拡大は企業や個人事業主にとって資金調達のハードルが下がるという利点をもたらすと考えられます。
2-2.資金調達のハードル低下
ビジネスを運営する企業や個人事業主の視点で考えると、ブロックチェーンでトークン化されたRWAが集まるDeFiエコシステムを活用することで、資金調達が従来よりも容易になるという利点があります。
伝統的な金融市場において、企業や事業主が新規事業のために資金を調達するには複数の法的手続や審査の通過が必要です。これには時間的・金銭的コストがかかるため、小規模事業者がある程度規模の大きな資金調達を行うことは容易ではありませんでした。
しかし、非上場株式等のRWAを裏付けとしたトークンを発行することで、ブロックチェーン技術によって高い透明性を保ったまま、投資家から直接的な出資を受けることが可能に。証券会社等を通じた資金調達よりも容易な資金調達が可能となるでしょう。
投資家視点で考えると、投資対象の多様性が上がり、従来のシステムでは日の目を浴びることのなかった有望な小規模プロジェクトにも投資できる環境が整うことを意味します。
2-3.資産流動性の向上
加えて、RWAのトークン化は、伝統的な金融市場で取引されている資産の流動性を高める効果も期待できます。不動産やプライベートクレジットファンド、非上場株式などはクローズドな環境で取引されることが多く、流動性は高くはありません。
こういったRWAをトークン化することで最小取引額の小口化が可能となり、少額投資が容易となります。より多くの人に投資の機会がもたらされ、投資家が以上のような資産を手軽に売買できるようになれば、市場の流動性は向上するでしょう。流動性が向上すれば、価格の安定性や約定率の向上、市場参加者からの信頼の獲得など、多くのメリットが見込めます。
2-4.取引コスト削減
RWAのトークン化はブロックチェーン技術を統合して行われるため、ブロックチェーン技術の長所である「取引コストの削減」という恩恵を受けます。
RWAをトークン化すると、スマートコントラクトを通じた透明性の高い自動契約などが可能になるため、金融取引に関わる銀行や証券会社などの第三者の仲介が基本的に不要となります。そのため、従来これらの機関に支払っていた管理手数料や仲介料などの各種コストを低減できるのです。
3.リアルワールドアセット(RWA)の事例
3-1. 米国債のトークン化の事例
2023年に金利上昇が続く中で、「米国債のトークン化」市場が注目を集めています。データサイト「RWA.xyz」によると、この市場のプロトコルに預けられた総価値(TVL)は、2023年初頭の約1億ドルから2024年11月26日時点で1,340億ドル(20兆円)に増加しました。
トークン化された米国債は、6か月ごとの利息受取や償還期限での元本返還といった、通常の米国債と同様の特徴を持っています。Ondo FinanceのUSDYやMountain ProtocolのUSDMは、従来型ステーブルコインとは異なり、裏付け資産(米国債)の金利を直接反映するステーブルコインとして人気を集めています。
関連:米国債トークン市場が2023年に急成長、金利上昇の影響で
3-2. 不動産市場における事例
また、RWAのトークン化は、さらに規模の大きな取引でも実用化が進んでいます。不動産市場における事例をご紹介しましょう。
従来の不動産投資は、手続きに時間がかかるうえ仲介の手数料が高いという問題や、国際的に不動産取引を規制するための法的拘束力を持つ規定がないため、手続きの煩雑さから十分な流動性が保たれにくいという問題を抱えています。
そういった状況を改善すべく、国際的な不動産取引の活発化をトークン化によって実現するのが「Propy」です。Propyは、不動産取引をブロックチェーン上で行えるプラットフォームを提供する米国企業。NFTの標準規格であるERC-721規格を用いて不動産をトークン化し、その所有権をマーケットプレイス上で取引・移転を可能にします。
Propyのプラットフォーム上では、日本やアメリカ、ヨーロッパ、アフリカ等、国境を超えた不動産の取引が積極的に行われています。
2024年、RWAの最新動向
ビットコイン現物ETFの承認に米大統領選と、2024年は暗号資産市場にとって追い風となった年でした。RWAのトークン化も例外ではなく、その市場規模は過去最大の約1,860億ドルに。 前年比で32%増加しており、オンチェーンのRWAが急速に拡大していることが伺えます。
RWAには多様な資産が含まれますが、中でも筆頭はステーブルコインです。 ここではRWAのトークン化を牽引するステーブルコインについて、その概要や活用事例を紹介します。
ステーブルコインとは
ステーブルコインは暗号資産の一種です。 オンチェーンRWAの時価総額に対してステーブルコインが占める割合は90%強。RWAのトークン化促進における影響力の大きさを示しています。
最大の特徴は、その価値が法定通貨等(主に米ドル )に裏付けされているということ。 例えば、主要なステーブルコインの一つであるテザー(USDT)は、1ドル=1USDTとなるよう設計されています。 そのため価値が安定しやすく、ブロックチェーンプラットフォームにおける決済手段として幅広く利用されています。
ビットコインに対する優位性
ビットコイン(BTC)などの暗号資産は価格変動が大きいため、しばしば決済との相性の悪さが指摘されます。この課題を克服したステーブルコインは、ビットコインよりも決済手段としての適性が高いといえるでしょう。 実際、主要暗号資産による総取引高のうち、約50%はステーブルコイン(USDTとUSDC)によるものです。これはビットコインやイーサリアム(ETH)を凌ぐ値です。
USDT and USDC now represent nearly 50% of the total transaction volume among major crypto assets, underscoring the crucial role stablecoins play in providing liquidity and stability to the market. pic.twitter.com/iaqf17PtEL
— IntoTheBlock (@intotheblock) October 18, 2024
また、ステーブルコインの相互運用性に対する注目も高まっています。 ビットコインやイーサリアムは、それぞれ独自のブロックチェーンを保有する暗号資産です。 そのため互換性が低く、一方を別のブロックチェーンに移動させる場合、ラップドトークンへの変換を介す必要があります。 対してステーブルコインはオリジナルのブロックチェーンを持ちません。 例えばUSDCは、イーサリアムやソラナなど、計16のブロックチェーンをサポート。 ボーダレスかつスムーズな決済と高い汎用性を実現しています。
ステーブルコインの利用例
こうした性質を踏まえ、ステーブルコインは決済インフラとしての役割が期待されています。 Visaをはじめ、複数の大手決済会社がすでにステーブルコインによる決済機能を追加。 その一つであるPayPalは、2023年にオリジナルのステーブルコイン(PYUSD)をローンチしました。多くのオンラインストアで支払いに使えるほか、今年11月にはフィリピン、アフリカの企業との提携を発表し、国境を跨いだ決済の円滑化を進めています。 これは、国内利用が主である電子マネーと比較しても、大きなアドバンテージであるといえるでしょう。
主要金融機関の参入状況
主要な金融機関も、続々とトークン化の導入を進めています。 JPモルガンが2020年に立ち上げたKinexys(旧Onyx)は、その基盤の一つです。 次世代の投資インフラを目指すブロックチェーンとして、RWAのトークン化とオンチェーンでの投資を実現しました。 米資産運用大手フェデリティなど、既に複数の主要企業がこのKinexysを採用。有価証券のトークン化を進めています。
また2024年3月には、BlackRock初のトークン化ファンドBUIDLも発表されました。 イーサリアム上での取引が可能で、主な投資対象は米国債券。 既存のファンドと比較して、資産状況の透明性や取引時間の柔軟さが特長です。 同社のデジタル資産部門責任者であるロバート・ミッチニック氏は、BUIDLのリリースについて「当社のデジタル資産戦略において最新の進歩だ」と期待を示しました。
このように金融機関がトークン化導入を進める背景には、新しい顧客や投資資金へのアクセス獲得という動機も。 オンチェーンでの投資を容易にし、かつ取引の透明性や可用性を向上させることで、暗号資産に注目し始めた投資家や若年層を取り込むねらいがあります。
金融機関によるRWA市場の展望【2024年版】
マッキンゼーは、トークン化された資産の市場規模について、2030年までに約1兆ドル〜4兆ドルに達するとの予測を発表しました。 他にも複数の金融機関が、今後資産のトークン化が拡大する可能性を指摘しています。 資産の種類や特徴によって、トークン化との相性は異なります。 ここでは、今後トークン化が加速すると予想される資産について、その背景とともに紹介します。
現金・預金・債券のトークン化
マッキンゼーの調査では、現金や預金、債券といった資産がトークン化の第一波となると指摘しています。 現状の流動性の低さ、技術的複雑性や規制上の考慮事項の少なさなど、トークン化されやすい条件を満たしていることが理由です。 特に今は世界的な高金利環境。安定したリターンが得られる点もこうした資産の人気を後押ししています。
ステート・ストリート・グローバル・アドバイザーズは中でも債券市場に注目。 その複雑性と発行回数の多さという性質上、トークン化による自動化・コスト削減の恩恵が大きいためです。 これらは伝統的な資産であるため、投資家の参入障壁が低いというメリットもあります。
ファンドのトークン化
投資信託、ETFに次ぐ「資産運用の第三革命」として、ファンドのトークン化も注目を集めています。 ボストン・コンサルティング・グループ(BCG)は、トークン化されたファンドの需要を約2900億ドルとする見積もりを発表。WHITEPAPER「Tokenized Funds. The Third Revolution in Asset Management Decoded」の中で、トークン化されたファンドの全体の運用総額(AUM)は2030年までに6000億ドル(全ファンドの約1%)に昇ると予想しています。
一つ目の鍵は流動性の向上です。 24時間365日の取引が可能になることは顧客体験を改善させ、投資家へのアピールポイントとなります。
二つ目の鍵は資産の細分化です。 一般に、プライベートファンドは特定の投資家にのみ開かれ、小口投資家にとってはハードルが高いものです。 最低投資額の高額さや情報格差が要因として挙げられます。 トークン化で資産が細分化されれば、こうした市場への参入障壁を緩和することができます。
最新の技術開発とパートナーシップ
RWAのトークン化を利用した技術開発、新たなビジネスも広がっています。 ここでは国内の事例を二つ紹介します。
トークン化x日本酒
ぷらっとホーム株式会社は2024年10月、秋田県の酒造会社等5社と提携した、あたらしい日本酒体験を創出する事業の開始を発表しました。 現実世界の日本酒を個品単位でNFTトークン化、輸出先到着までの動きを追跡し、IoT技術で鮮度・温度などをモニタリングをするという事業内容です。
トークン化技術「Things Token」を提供するのがぷらっとホーム株式会社。 主にマイクロサーバーやIoTサービスを製造・販売する会社ですが、2016年には「ブロックチェーン推進協会」への参加も表明しています。
従来の日本酒市場では、流通管理のシステム化が遅れており、在庫管理や物流計画が非効率的という課題がありました。
このプロジェクトにより、日本酒販売の過程がパッケージングシステム化され、輸出後の流通経路や販売実績の把握が可能になるといいます。 日本酒以外にも、さまざまな製品への応用が期待できます。
トークン化x別荘宿泊権
2024年10月には、NOT A HOTEL DAO株式会社がIEOの申込受付を開始しました。 RWAのIEOは国内で初めての事例です。
親会社のNOT A HOTELは全国にラグジュアリーなシェア別荘を展開する会社で、過去に別荘の利用権を分割した「メンバーシップNFT」を販売した実績を持ちます。 今回発行されるトークンNOT A HOTEL COIN(NAC)を保有することで、ユーザーは別荘の利用権を獲得できます。
プロジェクトのコンセプトは「NOT A HOTELをみんなで保有して、みんなで利用できる仕組み」。 トークン化で細分化することで、一般投資家は別荘の利用権を保有しやすくなります。 企業にとっては、利用権保有者を証明・管理するコストの削減というメリットがあります。
RWAトークン化の魅力を存分に活用したこのプロジェクト。今年12月の取引開始に注目が集まっています。
関連:NOT A HOTEL COIN(NAC)の買い方、GMOコインのIEO参加方法
伝統金融とクリプトをつなぐリアルワールドアセット(RWA)
本記事では、既存金融とクリプトをつなぐリアルワールドアセット(RWA)の概要を解説しました。リアルワールドアセット(RWA)とは、不動産やローン、契約、ロイヤリティー、金融商品、美術品などのオフチェーン資産を、ブロックチェーン上で取引を実行できるようにトークン化したものです。伝統金融(TradFi)と分散型金融(DeFi)のいずれとも高い親和性を有しており、両者をつなぐ架け橋的な存在になることで、DeFi市場がさらに拡大するのではと期待されています。
無形・有形の現実世界の資産をブロックチェーン上に持ち込めるため、従来の市場で行われていた取引に流動性がもたらされ、金融市場全体に対しても大きなインパクトを与えるでしょう。