価値交換の新たな基盤を目指して
シンガポールを拠点とするUPCX-Platformsは、決済・金融サービスに最適化された高速ブロックチェーンを基盤とするオープンソース・ペイメント・システム「UPCX」のメインネットを2024年10月18日に公開した。
インフレや経済的な変動がもたらす通貨価値の不安定化が進む中、暗号資産は価値保存の手段として期待を集めている。しかし、それらを活用した総合的な金融プラットフォームは、まだ十分に整備されていない状況だ。UPCXはこのギャップを埋め、従来の金融システムを補完し、ユーザにとって利便性・信頼性の高い価値交換の場を提供する。
UPCXは、決済や金融サービスでの利用目的に特化したシステム設計を採用。この結果、クレジットカードやモバイルペイメントに匹敵する実用レベルのパフォーマンスとスケーラビリティ(秒間10万件以上の取引処理能力)を備える。
UPCXの技術基盤
UPCXのシステムは、以下の技術基盤により構成されている:
- コンセンサスアルゴリズム: Delegated Proof of Stake(DPoS)とByzantine Fault Tolerance(BFT)のハイブリッド型を採用しており、スケーラビリティ、取引の確定時間の短縮、セキュリティの強化、エネルギー効率の向上を実現。
- スケーラビリティ: Grapheneベースのインフラとシャーディング技術を組み合わせることで、秒間トランザクション(TPS)10万件を達成しており、今後もさらなる拡大が可能。
- 互換性: EVM(Ethereum Virtual Machine)互換で、 Ethereumだけでなく、さまざまなEVM対応チェーンで開発されたスマートコントラクトをUPCX上で利用しやすく、既存システムとの統合も容易。
- 相互運用性: クロスチェーンブリッジを活用することで、異なるブロックチェーン間での資産やデータのやり取りがシームレスに行われ、相互運用性を確保する。
- セキュリティ: 量子コンピュータ時代のリスクに対応するため、ポスト量子暗号の採用を予定。この暗号技術は、量子コンピュータによる攻撃にも耐えられるよう設計されている。
※詳細については、UPCXホワイトペーパー(日本語版)をご参照ください。
UPCXの特徴的な機能
UPCXは、多くの便利で革新的な機能を実装している:
- ネームドアカウント機能:長くて複雑なブロックチェーンアドレスに代わり、ユーザが設定した任意の文字列をアドレスとして使用できる。
- プッシュ型・プル型の決済:支払者から受取者に送金することはもちろん、受取者から支払者に向けて支払の要求を行うことができる。
- 自動支払機能:特定の日付や指定された間隔で定期的に自動的に支払いを行うことができる。
- ノンカストディアルエスクロー:商品やサービスの売買において、買い手は自分のウォレット内で資金をロックし、契約の履行が確認され次第、売り手への送金が承認されるため、安全に取引が行える仕組み。
- リファラルプログラム:紹介者は被紹介者が支払うネットワーク手数料の一部を報酬として受け取る。
- MPA発行者報酬:いわゆるステーブルコインであるMPA (Market Pegged Asset)の発行者は、MPAが取引に利用されるたびにネットワーク手数料の一部を報酬として受け取ることができる。
※詳細については、UPCXホワイトペーパー(日本語版)をご参照ください。
MPA:安定性と収益性を両立する新たな資産モデル
UPCXの特徴として、MPA(Market Pegged Asset)発行者への報酬制度がある。MPAは、法定通貨、商品、他の暗号資産などの原資産または資産バスケットにペッグすることで、安定した価値を維持するように設計された暗号資産だ。
MPAの発行者は、取引手数料の一部を継続的に受け取ることができる。特に注目されるのが、クロスカレンシー送金・決済での活用だ。例えば、送金者が日本円ペッグのMPAで支払い、受取者が米ドルペッグのMPAで受け取る場合、UPCX DEXを通じて自動的に通貨換算が行われる。MPAの発行者は、このような取引が行われる度に手数料の一部を受け取れる。
価値の安定性は、UPCXのネイティブ通貨UPCによる200%の過剰担保方式で確保。この仕組みはスマートコントラクトで管理され、担保価値が大きく下落した場合でも安定性を維持できる設計となっている。また、複数の通貨建てMPAを発行できる柔軟性により、グローバルな資金需要にも対応する。
IoT時代を見据えた事業展開
UPCXは、高速な決済処理に加え、IoTインフラの基盤技術としての展開も視野に入れている。この戦略の一環として、日本のテクノロジー企業ペイクルおよび次世代センサ協議会との3社業務提携を発表した。
次世代センサ協議会が推進するSUCSコンソーシアムの技術標準と、UPCXの高速ブロックチェーン基盤の統合により、IoTデバイスから生成される膨大なデータの効率的な管理が可能になる。この取り組みは、スマートシティの実現やインダストリアルIoTの発展に貢献すると期待されている。
「センサ技術とブロックチェーン技術の統合により、データセキュリティと透明性の向上を実現する」とペイクルの村上昌史代表は述べる。また、次世代センサ協議会の小林彬会長は「センシングデータの安全な管理と活用に新たな可能性をもたらし、産業の進化とデジタル化を促進する取り組みとなる」と期待を示した。
グローバル展開を加速する経営体制
UPCXは、国際的な経験を持つ多彩な経営陣を擁する。共同創業者の今泉大氏は、金融・IT分野で20年以上のキャリアを持ち、日米間のエネルギー技術合弁企業でChief of Staffとして戦略的幹部補佐官を務めた。日本と世界を繋ぐビジネス開発および環境保全に強い関心を持ち、グローバルアドバイザリーファームやグローバルファンドの立ち上げにも寄与している。
共同創業者で最高技術責任者(CTO)のJoerg Alexander Weisshaar(ウァイスハー ヨーク アレクサンダー)氏は、ITコンサルティングでの4年以上の経験と、日本のITスタートアップでCOOとして新規サービスを成功に導いた実績を持つ。ドイツ語、英語、日本語に精通し、技術開発からマーケティングまでを統括している。
共同創業者で最高戦略責任者(CSO)のDr. Jason Nye(ジェイソン ナイ博士)は、米国国務省で通商貿易政策に携わり、NATO委員会での米国代表など豊富な国際経験を持つ。2つの国際アドバイザリーファームとグローバルファンドの設立にも貢献し、日米先進エネルギー技術合弁会社のCEOも務めた。
最高執行責任者(COO)には、株式会社電通スポーツアジアの元社長兼CEOで、国際的なスポーツビジネスに精通する森村国仁氏が就任。
最高財務責任者(CFO)には、米国・ブラウン大学卒業後、外資系金融業界で10年の経験を持つ後藤康之氏が参画している。
最高マーケティング責任者(CMO)には、カナダのダルハウジー大学で経営管理を学び、コングロマリット企業にてグローバルな視点から事業戦略やマーケティングに携わってきた佐藤剛基氏が就任。
アドバイザーとして、三嶋義明氏が加わり、グローバル金融市場での展開を支える体制を整えている。三嶋氏は、UBSグループでの金融商品取引経験を持ち、モンゴルハーン銀行やロシアのソリッドバンクで非常勤取締役を務め、事業戦略や財務戦略の立案に関与してきた。
今後の展望
UPCXは、次世代の金融プラットフォームとして、決済システムの枠を超えた価値提供を目指している。高速性と安定性を備えた価値交換基盤として、特に地域の通貨不安に直面する市場において、新たな金融インフラの標準となることを視野に入れる。
今後は、パートナーや開発者との協力関係を積極的に拡充。産業用データ管理や国際送金市場での展開に加え、IoTプラットフォームとしての機能も強化していく方針だ。